お金は大事だ。
生活の自由も、選択の幅も、自分を守る力も、愛するものを守る術も、世の中の多くはお金に左右される。
私は今、念願だった「ネコと暮らす暢気生活」を手に入れて、毎日、とても満ち足りている。この生活がいつまでも続いてほしい、私の命が尽きるまで……けれど、どうだろう。
やはり、「先立つものは金」である!
お金は、やはり潤沢にあるほうがいい。いや、贅沢は言わない、普通の生活ができればいい。
……しかし、それすらも確実とは言えないのが現実だ。
長年連れ添ったネコに、必ずこの生活を守ってみせるから!と誓うけれど。しかし、どうやって……
誰しも思いつくのは、一獲千金を狙う「投資」や「投機」といったものだろう。
株式のトレード歴は20年を超えるが、主に少数の銘柄を買って、放ったらかしのスタイルでやってきた。短期トレードは自信がない。何度か挑戦したデイトレードは、ことごとく失敗に終わっている。
にもかかわらず、私は「ブビンガ(バイナリーオプション)」に挑戦することにした。
が、損失は少ないものの、どうにも上手くいかない。資金を入れて溶かしての繰り返しだ。せめて小遣い程度は稼ぎたいと強く願う。
――そこで私は、当てにならないトレードから一旦距離を置き、「まずは稼げる自分になる!」を目指すことにした。胆力を鍛えよう、というわけだ。
前置きが長くなったが、私が選んだ修行の道は――「掃除道」。
雑念や、ごちゃごちゃしたモノを排除し、清らかな心で大金をつかもうというのだ。
バイブルは、枡野俊妙著『人生を好転させる掃除道』。
この本の素晴らしさは、電子書籍のkindleや音声版のAudibleで、繰り返し読み聞きし、すでに骨身に沁みて知っている。
私は、自分史上最高に全神経を集中させて本書を確認した。映像が、文字を追うよりも先に浮かんでくる。感銘を受け、掃除道に取り組んだ記憶がよみがえる。
本書の冒頭に出てくる「一掃除、二信心」という言葉が……私はとても好きだ。
雲水(修行僧)は、汚れていようがいまいが、毎日掃除に取り組む。――禅僧にとって、掃除とは日々の勤めであり、心を磨く修行そのものなのだ。
「頭」で覚えるのではなく、「体」で覚える掃除。これは掃除に限らず、あらゆる物事に通じることだろう。そして、一度体で覚えたあとも、なお繰り返し行うことで自分が磨かれる。……まさに掃除道である。
掃除をしていると、不思議と小さなことに気づけるようになる。
いつの間にか棚の隅に溜まったほこり、ずれていた絵の位置、ほんの少し開いていた引き出し――それらは日常の中では見逃してしまいがちな存在だ。
だが、黙々と掃除をしていると、そうした細部が自然と目に入ってくる。
この「気づく力」は、生活全体、ひいては相場を見る力にもつながっている。
チャートの微細な動きや、場の空気のわずかな変化に気づけるかどうか。それが、トレードで生き残るかどうかの分かれ道になる。日々の掃除で培った観察力と集中力が相場に向かう自分を支えてくれるのだ。
さらに、掃除は自分を整える行為でもある。
無心で雑巾を絞り、床を拭いているうちに、心の中のざわつきが静まり、「今ここ」に集中できるようになる。
これはトレードでもまったく同じだ。感情に飲まれて焦ったり、欲に突き動かされてポジションを持つと、必ず損をする。必要なのは、静かで冷静な心なのだ。
掃除は私に大切なことを教えてくれる。
派手な戦略や派手な生活ではなく、地味で、静かで、繰り返される習慣――そこに本当の力が宿るのだと。
大きな一勝より、小さなルールを守り続けること。
短期的な結果より、長期的な成長に目を向けること。
日々の掃除が部屋と心を整えるように、日々のトレードもまた、自分の技術と精神を整えてくれる。
そして、ある日ふと気づくのだ。
「いつのまにか、自分は稼げるようになっていた」
と――。